TARO
2007 / 09 / 02 ( Sun ) オバサンに連れられて騒々しい都会に帰ってきた。
蝉の鳴き声すら聞こえないこの場所で。 のんびりする人ものんびりできる時間もなにもない。 あんなに赤かった夕方もこっちでは関係ないみたいだ。 誰も夕日を見ない。 みんな下を向いて歩く。 必死に逃げるように歩く。 僕の夏はこれで終わったんだろか。 終わったんだろう。 暑いのに暑くない夏。 暖かかった夏。 また来年もこんな夏が来たらいいのに。 うちに手紙が届いた。 オバサンは手紙を読むと静かに手紙を置いた。 僕には何が書かれてるのかはわからない。 でもなんとなくわかる気がした。 悲しいことなんだろうって。 僕は元気だよ。 またいつか逢おうねお爺さん。 柴犬。 まめ柴。 僕の名前は太郎。 犬って呼ばれるけど。 |
TARO
2007 / 09 / 01 ( Sat ) 柴犬。
まめ柴。 名前は太郎。 黒光りする車から知ってる人が降りてきた。 間違いなくあのオバサン。 僕は逃げるように家の中に入った。 見つからないように。 恐かったんだ。 お爺さんがいない事を知ると帰っていった。 また次の日も家に来てた。 毎日来る。 それでもお爺さんは家にいない。 葉っぱを見に行ってるから。 でも今日は少し違うようでずっと待ってる。 お爺さんが帰ってくるのを。 その間僕はずっと動けずにいた。 お爺さんが帰ってくる。 何か話してるみたいだけど僕は聞いてなかった。 聞きたくなかったから。 オバサンが帰った後お爺さんが笑いながら僕に話しかけた。 「犬、おめ帰ぇれ」 僕は考えた。 本当は何も考えてなかったのかもしれないけれど。 僕は何かを考えた。 |
TARO
2007 / 08 / 31 ( Fri ) 柴犬。
まめ柴。 名前は太郎。 お爺さん家に来て数日が経つ。 結構経ったんじゃないかな。 毎日変わらないようで段々と暑かった日も涼しくなっていく。 鬱陶しかった蝉の鳴き声も寂しくなってきた。 夕方の日も次第に寂しさを増す一方。 雨の日もお爺さんは車に乗って葉っぱを見に行く。 それがお爺さんの仕事なんだって。 僕はその間お留守番をするんだ。 お爺さんに預けられた家の中を守る為に毎日見て回る。 グルグル何回も同じルートを回る。 それが僕の仕事。 時々虫がいたり。 ウサギがいたり。 スズメとか、ツバメの巣の跡なんかも見かける。 これから冬に掛けてみんなが忙しくしてるような気がする。 寂しくなるな。 僕は冬に向けて何かしなくていいんだろうか。 お爺さんも。 毎日同じ事を繰り返してる中で周りは変わっていく。 取り残されるような気がして。 僕は一人焦っている。 そんな毎日に一つ違う事が起こる。 家の前に黒光りする車が停まった。 お爺さんはいなかった。 |
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2007 / 08 / 30 ( Thu ) 柴犬。
まめ柴。 名前は太郎。 お爺さんの家は広くて少しうろついてみた。 この家にはお爺さん一人で暮らしている。 紙が張られてるだけの扉。 ちょっと引っ掻いただけで破れる。 広い台所。 冷蔵庫がなくて水に浸けられた野菜がある。 ちょっと外に出てみると近くに井戸があって風が出てる。 すぐ裏手に山があって鳥が鳴いてる。 今まで暮らしてた場所とは全く違って静かなところ。 お爺さんは僕の事を「犬」って呼ぶ。 犬って呼ばれて僕も自然と振り返ってる。 お爺さんは毎日朝と夜に仏壇に向ってブツブツ言ってる。 そろそろ収穫の時期だぁとか。 お爺さんが車に乗って帰ってきた。 赤い夕日を背中に浴びながら。 家の中まで赤く染まる。 暖かくて包まれるようなフワフワしてるような。 ここにいると落ち着くから眠くなってくる。 |
TARO
2007 / 08 / 29 ( Wed ) 柴犬。
まめ柴。 名前は太郎。 雨の降る音に混じって足音が聞こえる。 老人が帰ってきた。 独り言を喋りながら。 スゥっと手が伸びてきた。 ご飯を取ると「食べとらんのか」と一言。 老人がそう言いながら覗き込んできた。 「うち来るか?」と聞かれた。 でも僕には返事ができなかった。 老人が車のドアを開けて待ちながら「ほれ」と車の中を指差す。 僕は導かれるままに車に乗った。 お爺さんは自分の事を色々話してくれた。 僕はあんまり聞かずに寝てるだけ。 お爺さんが掛けてくれたタオルが妙に暖かかった。 |
